FOOD TEXTILE STORY vol.3
地元の抹茶×アパレルの協業から生まれる
新たなイノベーションに大きな可能性を感じます。
2022.06.15
株式会社南山園
専務取締役
富田晋介 さん
株式会社南山園
専務取締役
富田晋介 さん
豊かな自然環境と伝統の技術が育んだ西尾の抹茶。
矢作川の畔にあるひときわ目を引く大きな風車。南山園のランドマークだ。
“西尾の抹茶”ブランドで知られるこの地に創業した茶農家・南山園の歴史は、古く明治後期にまで遡る。燦々と降り注ぐ太陽の下、どこまでも続く平地に広がる茶畑は、その恵みをたっぷりと享受してきた。
「抹茶の元となるてん茶は、新芽が伸び始める頃から茶棚に日除け用の黒い覆いをかけて育てます。矢作川の両側に茶園が広がっていますが、昔はこの川霧が自然の日除けの役目を果たしており、抹茶の栽培に適した環境と言われていました」。
専務取締役の富田さんは、ほぼ毎日緑色のネクタイを締めているという。そんなお茶愛溢れる、少しお茶目な富田さんは、南山園の4代目。てん茶栽培が盛んになった理由をさらに続ける。
「最適な自然条件に加え、隣接する岡崎市は古くから石の産地で、石臼も作られています。質のいい石臼が手に入りやすかったことも大きかったんでしょうね」。
南山園ではてん茶から抹茶にするために、今なお最高品質の抹茶を生み出す伝統の石臼を使い続けている。それを回す動力の一部として、冒頭の風力発電を工場で利用している。自然の恵みへの感謝の想いを風車に込めたという。
全国でもほとんど例を見ない栽培から抹茶生産までの一貫生産体制。
「南山園の最大の特徴といえば、茶葉の栽培から加工、小売り、海外への輸出まで、一貫して行っていることです。もともと茶農家でしたからね。茶葉から作っているところは愛知県はもちろん、全国でも数少ないんです。土づくりからお茶に寄り添うことができるのがいいところじゃないでしょうか」。
南山園の抹茶は、裏千家のお茶会用の他、食品加工用として幅広い製品に使われている。製菓や製パン、カフェチェーンなど、用途に応じた抹茶をオーダーメイド。名前こそ出ていないが、よく目にするお菓子などに、南山園の抹茶が使われていることは珍しくない。多くの抹茶を使用する上で、当然、生産過程で販売できない規格外の抹茶も出る。
「品質を揃えるためにも篩にかけて選り分けます。販売できないものも捨てるのはもったいないので、自然に返すという意味で、抹茶の残渣は堆肥化して茶畑に撒いていました。堆肥の補助的なものですけど。今まで当たり前のように撒いていましたので、そこから今回のような展開になるとは夢にも思っていませんでした」と富田さんは語る。
異業種とのコラボレーションが生み出した新たな可能性。
グリーンの染料を求めていたFOOD
TEXTILEが魅力を感じたのが、地元、西尾の抹茶だった。
2019年6月、FOOD
TEXTILEから声がかかったとき、なぜアパレル?と富田さんは驚いた。食品加工用がメインだったが、最近ではコスメの材料としても使われていた。しかし、想定外のアパレル。ただ不安よりも、何か新しい抹茶の可能性が広がるのではとワクワクの方が大きかったと当時を振り返る。
「抹茶の残渣で染めたサンプル生地を見せてもらったとき、想像していた色とは違いました。もっと鮮やかなグリーンになるのかなと。でも、手に取った布の色は、落ち着きのあるグリーン。“和のカラー”でした。まさに私が望んでいた色だったんです」。
抹茶でしか出せないグリーンは、深緑の木々を揺らす風のように爽やかで、優しい色だった。目にすると不思議なほどに心が落ち着く。
「正直、こんなことができるのかと驚きました。抹茶を石臼で挽くというのは数百年前から何一つ変わっていません。それを良しとしてきましたし、自前ですべてやることに誇りを持っていました。それが、自社の枠を越え、業界を越えてFOOD
TEXTILEの卓越した技術と出会ったことで、まったく新しい抹茶の可能性を引き出してもらいました」
不易流行。FOOD TEXTILEに教えられたこと。
現在、南山園の抹茶の残渣は、FOOD
TEXTILEの様々な製品に使われている。抹茶がアパレル用途に使われるのは、南山園にとっては今回が初めて。そこに大きな意味があると富田さんは語る。
「我々は、あくまでも加工用の抹茶を製造しているので、最終製品に当社の名前は一切出していません。しかし、今回初めて社名を出すことにしました。当社にとっては“only
one”の取り組みです。それだけいい製品であることを誇らしく思いますし、また社名が出ることで、社員の励みにもなるからです。FOOD
TEXTILEの皆さんは、常に情報を共有してくれます。どんな製品になるのか、色味はどうかなど、従来の黒子としての存在ではなく、協業しているという感覚も初めてでした。FOOD
TEXTILEの想いをカタチにしたいという情熱に引っ張られた感じですね」。
分野が違うからこそ、その出会いが新しい方向性を生み出していく。それまで、真面目に丁寧に伝統を守ってきたと自負する富田さんだが、一方で新しい時代にふさわしい、新しいものへと抹茶の可能性を広げていくことも、自社のためにも、またブランドとしての“西尾の抹茶”のためにも重要だと語る。 「“もったいないことはすぐやめよう”というのが当社の理念にあります。FOOD TEXTILEにピッタリですよね」と富田さん。茶畑に撒いていた抹茶の残渣は、今は全てFOOD TEXTILEのために保存している。いつどれだけ必要になっても提供できる体制を整えているという。
「実はお願いがありまして…。今度、当社の抹茶で染めた生地でユニフォームを作ってもらいたいなと思っているんです。袖を通したときの思いが変わりますよね、きっと。それともう一つ……。ネクタイもお願いできないかなと。緑のネクタイは何本も欲しくて。“これ、当社の抹茶で染めたネクタイなんです”って間違いなく会話のきっかけになりますよね」。
茶目っけたっぷりに富田さんは笑った。
TEXT/ MASHIMO SATOKO
PHOTO/ SUZUKI AKIHIKO
FOOD TEXTILE Item
やさしい風合いが人気の抹茶カラー。
Re:Circulet(リサーキュレット)オンラインストアにて販売中(https://recirculet.com/foodtextile/)