FOOD TEXTILE STORY vol.4

“ちゃんと使ってもらえてよかったね。”
そう語りかけて送り出しています。

2023.03.1

長野県木曽郡木曽町
夢人市

代表 赤かぶ農家 野口廣子さん

ロゴ画像
野口廣子さん

長野県木曽郡木曽町
夢人市

代表 赤かぶ農家 野口廣子さん

伝統野菜から生まれた乳酸菌漬物が大ブームに。

長野県・木曽郡。標高1000〜1300mのこのエリアは、夏は冷涼で冬は寒さが厳しい。この気候と風土に育まれた伝統野菜が『赤かぶ』だ。地域名から名付けられた『開田かぶ』『王滝かぶ』が主な品種。 元々は、この赤かぶ部分は『赤かぶ漬け』として食べ、茎や葉、葉の付け根部分に当たる胚軸の一部も漬け込んだ『すんき(酸茎)』も保存食として古くから食べられている。 すんきは、塩が貴重だった時代に塩をいっさい使わずに、植物性乳酸菌によって発酵させて作った珍しい漬物だ。300年以上も前からこのエリアのどの家庭でも食べられていたものだが、25年ほど前に乳酸菌が注目されると、体にいい食べ物として全国的に知られるようになった。 2007年にはスローフード協会国際本部より世界的にも貴重な食の遺産『味の箱舟』にも登録されている。

すんき画像

「乳酸菌のある野菜は珍しいみたいですね。
ちょっと酸味があって塩を使っていないのに塩味もあるんですよ。
我が家では毎日味噌汁に入れています」と語るのは、農業を営む野口さん。およそ20haの広さの畑に開田かぶを育てている。近所の仲間5人で種まきから収穫、加工、販売まで全てを手掛け、自家製の「赤かぶ漬け」と「すんき」は近くの道の駅などで販売している。

野口廣子さん画像

すんき人気の陰でかぶの廃棄という現実。

木曽町で生まれ育った野口さん。実家も農業を営み、生まれた時から赤かぶを食べて育った。
小学生の頃からきのこ栽培や野菜作りが大好きで、よく手伝っていたという。畑の中にいる虫も好きで、畑で過ごす時間がとにかく楽しかったという。
同じ木曽町の農家に嫁ぐと、当たり前のように赤かぶを育ててきた。今年71歳になる野口さん。毎日畑仕事をしている人とは思えないほど肌のキメが細やかで色も白い。「すんきを食べているからかしらね」と少しはにかんだ柔らかな笑顔がまぶしい。

野口廣子さん画像

“赤かぶ仕事”は短期決戦で、11月は多忙を極める。8月の終わりに種まきを行うと、9月には間引きをし、11月には収穫期を迎える。霜が下りると旨みが増すためそれまで待ち、雪が降る前に一気に収穫しなければならない。 一方で、2カ月間ほどで生育し、虫がつきにくい季節であるため、農薬を使わずに育てることができるのも人気のポイント。
「赤かぶはそもそも丈夫で根性のある野菜なんですよ」と愛おしそうに語る野口さん。しかしこのエリアで多く栽培されている赤かぶのかぶ部分が、数年前から大量廃棄されるという問題に直面していた。
すんき人気に伴い、長野県からの要請もあって赤かぶの生産量を増やしたものの、使われるのは葉と茎の部分のみ。野口さんら農家もすんき作りに追われ、かぶにまで手が回らない。
「畑に放置しておくと、それを狙って猪や猿がやってきて畑を荒らすんです。そうなると畑自体が悪くなってしまう。もちろん赤かぶ漬けも作りますが、捌ききれません。辛いけどどうしようもない…」

かぶ画像

赤かぶから染料!?赤ではなくブルー!?

乳酸菌について研究するある大学を通じて、野口さんら赤かぶ農家の声を聞きつけたのがFOOD TEXTILEプロジェクトリーダーの谷村氏だった。
「廃棄するかぶが染料になるかもしれない…」。野口さんをはじめとした現地の農家の人たちが集まり、説明を受けた。プロジェクトメンバーも野口さんらも、赤かぶの鮮やかな色から想像したのは赤色。
しかし実際は、少しくすみを帯びたニュアンスのあるブルーに染まった。みんな驚いた。実はこれまで青色を出すことが難しかっただけに、嬉しい発見となった。

赤かぶで染めたボーターTシャツ画像 赤かぶで染めたふきん画像

「まさかかぶが染料になるとは!草木染めの経験はありますけど。種まきから全て自分たちの手で作っている赤かぶです。最後まで“使い切る”ことができるのは嬉しいです。
“もったいない”は、昔から日常生活の中にあった当たり前の感覚ですからね」。こうして野口さんがかぶ部分のみを豊島へ送るようになってから4年が過ぎた。

昔からの“当たり前”を見直すきっかけに。

かぶのままよりも、皮の状態の方が使いやすいのではないかと、野口さんは一手間かけて豊島へ送っている。
テキスタイルの需要も順調で、昨年は300kgほどのかぶを買い入れた。年に一度、11月にしか収穫できないため、プロジェクトで保存用の冷凍庫も導入した。もちろん天然染料ゆえ、毎回色味の調整に苦労するという。
それでもこの出会いとご縁は大切にして、軌道に乗せることに使命感を持ち続けてきたプロジェクトチームの想いは、野口さんたちにも伝わっている。

かぶの皮画像

「“とことん生かす”ことを誰もが考え行動したら、きっと毎日の暮らしはより良く、より豊かになると思うんです。赤かぶは季節ものですし、生ものですから、保存や発色など難しい問題も色々あると思います。
ただ私たちと豊島さんとが一緒に循環させていくことで、我々農家も考え方が変わっていくと思うんです。昔は当たり前だったことをあらためて見直すことの大切さを、豊島さんから教えてもらったような気がします。
今年もまた赤かぶを送る季節になったねと仲間たちと話しながら箱に詰め、赤かぶの染料で染めた布地を使う。少しずつそれが当たり前になってきているのが嬉しいですね。かぶも喜んでいると思いますよ」。
今年も極寒の冬を越し、菜の花が開田の山々を黄色に染める頃、かぶ菜の種作りが始まる。

野口廣子さん画像

TEXT/ MASHIMO SATOKO
PHOTO/ YASUI RIE

南山園社屋画像

ふるさとのおふくろの味 夢人市

長野県木曽郡木曽町新開8562-3