Ron Herman
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FOOD TEXTILE STORY vol.6
2026.5.7
「サステナビリティ」とことさらには語らない。その思想はプロダクトに確かに宿っている。まずは手に取りたくなるような魅力的なものを作っていきたい。 この共通した理念のもと、ロンハーマン、KIJIMA TAKAYUKI、豊島の3社が出会い、実現したコラボレーション。感性に響くデザインの奥にある素材や背景、そしてアパレル業界の未来に想いを馳せた3者の言葉から、今回のプロダクトをひもといていきます。
伊藤智子さん:ロンハーマン ウィメンズバイヤー
梶 雅人さん:KIJIMA TAKAYUKI ディレクター
都築里帆:豊島 営業企画室
(以下継承略)
都築:キジマさんとの最初のご縁は、4年ほど前。知人のご紹介からでした。夏のコレクションとして弊社の「フードテキスタイル」のタイプライターの生地を使っていただきました。
梶:そうでした。あの時は全体的にグレイッシュな色を3〜4色選ばせてもらい、制作しました。とても反響が大きく、展示会に来られたお客様に対して、「フードテキスタイル」というブランドを知っていただくきっかけになりました。
その効果からセールス面でもしっかりとオーダーをいただくことができ、当社の直営店でもかなりの人気商品でした。
都築:ありがとうございます。キジマさんが、お客様にフードテキスタイルの存在を丁寧に伝えてくださり、とてもありがたかったです。我々が大切にしているのは、「サステナブル」という言葉を前面に出すのではなく、まずは手に取りたいと思ってもらえる魅力のある製品を作ることなのです。
商品を手に取った時にふと心が動くような、そんな小さなきっかけを丁寧に積み重ねていくことで、結果的にサステナブルな選択にもつながっていくと考えています。
梶:そこは、我々もまったく同じ考えです。お客様からすれば、まず「かわいい」「被ってみたい」という感覚があってこそだと思います。
その先で、結果的に掘り下げてみると、大切な理念を持った企業が提供している生地で作られた商品だと分かる、という発見になることが大事になると思います。
お客様が自ら知りたいと思って深掘りしていく。そこがポイントで、その仕掛けができたことが、初回コラボレーションの最大の収穫だったと思います。
細部までこだわり、ハットの紐の留め具はレザーを選択
都築:今回、ロンハーマンさんと一緒に、という話を梶さんからいただいた時、小躍りしてしまいました(笑)。
豊島に入社してから8年間、ロンハーマンさんとご一緒することを目標の一つにしていました。ようやく片思いが叶いました。
梶:そうでしたか。豊島さんから、2度目のコラボレーションのお話があった際、デザインの監修と販売をお願いするならロンハーマンさん一択でした。正直、他は考えられませんでした。
伊藤:なぜそこまでロンハーマンに、と思ってくださったのでしょうか?
梶:やはり理念と行動力です。サステナビリティに関して、他社さんもここ何年かで「取り組んでいます」という動きは多々ありますが、ロンハーマンさんはかなり以前から真剣に向き合っていました。しかも見せかけではなく、社内でしっかりとアカデミックな基盤を積み上げてきている。規模の大きい組織でそれを実現するのは、大変なことです。
我々のような小さな会社でさえ大変なのに、スピード感をもって形にされていることは、素晴らしいと思っています。
伊藤:実は以前にも別企画でフードテキスタイルを使わせていただいたことがありますが、あらためて今回お声がけいただいた時に、ご一緒する決め手になったことは、キジマさんと同様に、まずファッションとして素敵なものが前提にあり、その奥に素材や背景があるというスタンスに共感したからです。
ナラティブを具現化した、メッセージ性のある商品としてお客様にも響くのではないかと感じました。
個人的なお話ですが、昨年の夏、暑い盛りに毎日自転車に乗っており、キジマさんの帽子を被っていました。ツバが大きいので飛ばされないように自分でひもを付けていました。 これをヒントに、より日常使いしやすいものを別注したいとぼんやりと思っていたところでした。そこで今回は、ひもを必ず付けて、飛ばされにくいツバの広さやクラウンの高さの調整をキジマさんにリクエストしました。
梶:そもそも帽子は洋服と違って可動域がないですし、今回はポケットをつけるなどの要望もありませんでした。
できることが限られているのですが、その分、ちょっとした違いで印象がガラリと変わります。
胸から上は、人の表情を大きく左右しますから。クラウンの高さを変えたり、ツバの大きさをどうするか考えたり、ひもの留め具もメタルにするかレザーにするかで雰囲気が随分変わるために、微に入り細に入り打ち合わせを重ねました。
デザイナーの木島が常々言っていることは、「引き算」という言葉です。素材を生かすためには、帽子に加えるものを敢えて削っています。たとえば、帽子の生地に張りを持たせるための芯材など、いろいろな素材が使われます。それを今回は除外しています。
もちろん型崩れはします。でもそこが大事なのです。芯を貼ってしまうと、触った時のふわっとした、この生地特有の感触が失われてしまったり、自然に置いたときのしわ感が出なくなってしまう。
しわこそが、生地の表情なのです。型崩れも、育てていくプロセスとして捉えてほしいのです。自然素材を人工的な何かで矯正しない。それが木島の思想です。
木島は、もともと草木染めに惹かれていて、環境にも人にも優しい染色に共感する部分が大きかったので、豊島さんとの協業もとてもスムーズに進んだのだと思います。
豊島さんが提供してくださるフードテキスタイル自体にも、すでに理念が宿っていますから、余計なことをしなくても、その生地を帽子にする。ただそれだけで、我々としてはやるべきことがきちんとできているという感覚があります。
伊藤:今回、この素材だとレザーが合うよね、など何度もキャッチボールを重ねて、ベストな着地点に至ったと思っています。 ハット型とキャップ型の2種類を作りましたが、キャップには当初天ボタンを付けていたのです。ただこれがあるとちょっと幼い感じがして、最終的には外すことにしました。また、形がカジュアルな分、金具はメタル仕様にして、全体のバランスを整えました。
エキナセア
都築:色はエキナセアとマローブルーから選んでいただきました。
エキナセアは食用としてもハーブティとしても使われるものですが、一種類の植物から、pHをコントロールすることで10色ほどのバリエーションが生まれます。
酸性に振ったり、アルカリ性に振ったりしながら、色合いを調整していきました。
伊藤:最初はポップな赤も入れようという話もありましたが、最終的にはアースカラーよりの、普段使いしやすい色でまとめました。結果的に、日常の中で気負わずに使えるものになったのではと思っています。
伊藤:ロンハーマンは、2021年から『LOVE FOR TOMORROW』というサステナビリティビジョンを掲げています。環境、コミュニティ、お客様、チームメンバーの4つにフォーカスしながら、より良い未来に向かって取り組んでいくというものです。
具体的には商品素材や資材の考慮、仕入れや在庫の最適化を行うだけでなく、千葉でソーラーシェアリングを実践し、太陽光パネルの下で農業を行うという事業も展開しています。
梶:それを大声で宣言するわけでもなく、当たり前にあるものとして浸透しているというのが、ロンハーマンさんの強さだと思います。
見せかけのエコではなく、地に足のついた取り組みを続けている信頼感が、お客様にも伝わっているのだと思います。
伊藤:「これはサステナブルな商品です」と敢えて強く謳うよりも、商品を手にしたお客様に対して、「実はこんな素材を使っているんですよ。だからこのような色合いなんです」と、店頭のスタッフとお客様との会話があり、
背景を知った上で選んでいただけたら、自然と愛着も湧いて、長く使っていただけると思っています。
都築:サステナビリティを考えたとき、1社でできることではありません。
コミュニティが重要になり、今回のキジマさんとロンハーマンさんとの取り組みも、まさにこのコミュニティを広げるものだと感じています。関わるすべての企業や人が、積極的に取り組むことで、初めて形になっていくものだと思います。
梶:ファッション業界は今、大きな転換点を迎えていると思っています。アパレルの廃棄率が60%に達している現実があり、一方で2030年以降は環境規制がさらに強化されます。
素材の検査結果やエビデンスを提出しなければ、ヨーロッパには輸出できなくなる時代がやってきます。
伊藤:そのあたりの変化は当社でもしっかり意識しています。1社単独で動くのではなく、取引先の皆さんと一緒に、変化に対応していく必要があります。
梶:そうですね。今、我々が大事にしていることは、ゼロからイチをつくるだけでなく、今あるものに価値を与えて活用する、という発想です。自社のアトリエで回収した帽子をリサイズしたり、
解体してアップサイクルするという取り組みも始めています。リメイク・リソース・アップサイクルといった“編集力”が、これからの作り手に求められるスタンダードになっていくのだと思います。
都築:フードテキスタイル自体も、食品廃棄物から染料を作るというのが原点です。あるものを生かすという発想は同じです。たとえばロンハーマンさんのカフェで出るコーヒーかすを使って染色する。そのようなコラボレーションも今後できればと思っています。
伊藤:それはおもしろいですね。帽子という入り口から、フードテキスタイルの世界をどんどん広げていけるような気がします。今回の帽子の反応を見ながら、次の展開を考えていきたい。使っていくうちに色が変化して、自分の手になじんでいく。そういう楽しみを、お客様に届けられたらと思っています。
梶:今回の帽子が、使う方のライフスタイルの一部に入り込めたら、私たちとしてはこれ以上に嬉しいことはありません。いろいろな場所に連れて行ってもらって、どんどん使ってもらいたいです。時間の経過とともに色が擦れたり、フェード感も出てきますが、そこには自転車に乗っていた時のことや、お子さんと過ごした時間や場所など、さまざまな思い出も刻まれています。
その帽子が心の支えになって、手放せなくなる。そんな帽子を作り続けたいのです。そして長く使ううちに、やがてどこかの時点で使えなくなり、新しい帽子が欲しいと思った時に、ロンハーマンさんや我々のことをふと思い出してもらえる。そんな存在でありたいです。
3社の理念が重なり合って生まれた今回のコレクション、ぜひ多くの方に手に取っていただきたいですね。
TEXT/MASHIMO SATOKO
PHOTO/YASUI RIE
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KIJIMA TAKAYUKI
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